DAC/スパイスラボ神部です。
テレビドラマ「素直になれなくて」など脚本を書かれている北川悦吏子さんから、下記のような質問がきたので、こちらに回答をまとめてみます。いつもの3倍くらいわかりやすい説明にチャレンジします。
電子出版ってどうやるの?
電子出版について考える前に、紙で本を出版するときのことを考えてみましょう。多くの場合、著者と出版社が契約して本を出版します。書籍の制作から流通にいたるまでの経費や利潤を差し引いたものが印税になりますので、出版契約の内容と売上数によって出版社側と著者の利益配分が決まります。本を買うのは読者で、全ての原資は読者の購入資金から集まります。
しかし、電子出版では、著者と出版社、流通経路にいる取次や書店、読者の関係がこれまでとはぜんぜん違うものになります。なので「どうやるの?」という疑問になるかなと思います。
Amazonの考える電子出版
本のオンライン販売で有名なAmazonは、実はかなり早い段階から電子出版に取り組んでいます。Kindle(キンドル)という専用の機械を使って、Amazon自らが出版社と本屋さんを兼ねようとしています。著者の印税率は最大70%くらいに設定しようという動きもあり、日本で本を書くよりも7倍~10倍の印税が著者に入ってくることになります。これは大きな魅力で著者にとっての電子出版に対する魅力と映るかもしれません。
もっとも、紙を使わない分本のコストが下がるので、適正価格として本の価格も今の半分以下になるかもしれません。それでも著者に入ってくる印税は最終的に今の3倍~4倍あたりにおちつくかもしれませんが、それよりもかなり大きいですよね。書籍というからには、原稿料は0で、印税だけの契約となるとすれば、ますまず重要になります。
じゃあさっそく私も・・・と思うかもしれませんが、残念ながら日本語コンテンツは現在許可されていません。電子出版を読む機械はもう100万台も売れて、電子書籍は40万冊を越えているというのに、もったいない話ですよね。
(がんばって、キンドル向けに日本語の漫画を出したという人もいるみたいですが)
iPhoneでさくっと電子書籍を読めないの?
iPhone向けの電子出版は意外とハードルが低いかもしれません。iPhone向けのKindleアプリもありますから、海外の人はもうめいっぱい電子書籍を楽しんでいます。でも、さっき買いたようにKindleは日本語の書籍がNGなので、わたしたちにはあまりたのしめません。
しかし、EPUBという形式で書籍を出版すれば、日本語でもiPhoneやiPad向けに電子出版ができるようになります。やった、バンザイ!といいたいところですが、なんとiPadで電子出版された本を購入出来る本屋さんアプリ"iBook Store"というアプリが、アジア向けには開始されていないようなのです。ここでも日本、おいてきぼりです。本屋さんアプリを介さずに、直接iPhoneアプリとして書籍を販売することもできますが、いろいろと難しい問題があるようです。アプリとして出すと審査に時間がかかったり、また日本とアメリカの文化の違いもあるため、事実上日本の書籍を出版するハードルはすごくあがってしまいます。
EPUBという形式だとパソコンやiPhoneの別のアプリでも読めますが、それらの個別のアプリの普及率を見ると、今、紙の本を出すように「出版した~!」ってカンジにはならないかもしれませんね。
(ちなみに、少年漫画雑誌のサンデーも、iPhoneアプリを出したみたいですが、昔出たまんがをすこしずつ、今より高い値段で販売して行くというかなり消極的な出だしのようです)
日本で電子出版をするにはどうするの?
じゃあおいてきぼりになっている日本はどうなっているかというと、とにかく揉めまくっています。なにしろ、電子出版が普及したら、日本中の出版社と、日本中の取次と、日本中の本屋さんが全滅してしまう可能性も全くないわけではないので、そうならないように自分たちを守るという意味と、それから今後電子化されている動きにおいていかれないように必死であればあるほど、電子出版が可能になるのが遅れて行きます。いまようやく、みんなであつまって会議をしているところです。
もちろん、先に動いているところもあり、独自に本屋さんアプリを作ったり、読書するためのアプリを出しているところもありますが、とにかくバラバラで、これといってメジャーなものとか、メーカーにとらわれなく、誰もが知っていて普及しているものというのは、そんなにありません。つまり、いまはフジテレビを見るためのテレビと、NHKを見るためのテレビと、テレビ朝日を見るためのテレビと、日本テレビと見るためのテレビと、テレビ東京を見るためのテレビがバラバラにあって、好きな番組を見たければそれ専用テレビを買わなくちゃいけない、そんな状況なんです。
じゃあ、電子出版ってどうやるの?
あれれ、それじゃあ電子出版なんてどうやるの?という答えはないじゃないか、と思うかもしれませんが、まったくその通りなのかもしれません。しいて言えば、いまは次のような選択肢があるでしょう。
-1.AmazonのKindleやAppleのiPad向けに、英語の電子本を出版する(欠点:日本語が使えない、日本で使えない)
-2.審査が通らないことを覚悟で、iPhoneアプリとして出版する(欠点:審査が厳しい)
-3.どこかの会社が作っている特定の電子出版の仕組みで本を出す(欠点:しくみがバラバラ)
-4.EPUBのような標準的な形式でダウンロード販売する(欠点:人に知ってもらいにくい)
それぞれ欠点がありますが、いまはこんな感じなのではないでしょうか。
大きな賭けに出るなら2.の方法でがんばるのもいいですし、今までの出版業界風に話をすすめるのがよいのであれば、3.の方法なんかだと、意外と話題にはなるかもしれません。いずれにしろ、紙の本を出すのに出版社の人と一緒に本を作るように「アプリを作る人や電子出版の仕組みをつくっているひとといっしょにやる」ということができれば、一応「電子出版をした」ということになるのではないでしょうか。
電子出版がちゃんと使えるようになるには?
たぶん、これから5年くらいの間に、主流の電子出版の仕組みがととのって、3~4社の大きな電子出版の会社が出来てくるでしょう。本当は、Kindleを入れればだいたいどんな本でも読める、という未来がくればいいのですが、日本では携帯電話の会社が3つもあるように、結局はたくさんの本屋さんアプリや、読書アプリを入れなければいけなくなると思います。
本の値段も、あいかわらず高いままかもしれませんが、2割くらいは安くなるかもしれませんね。作者の報酬も、1.5倍くらいは上がるかもしれません。そのときにバリバリ本を出したい、と思うのなら、今からばっちり頑張っておけば、紙をベースに作品を出している作家さんたちよりも、ちょっとだけ有利になれるかもしれません。まあそれでも、村上春樹さんが電子書籍で小説を発表したら、あっという間にトップになってしまうかもしれませんけどね。
おまけ:期待している2つのしくみ
さいごに、私が楽しみにしている、2つの電子出版の仕組みについて紹介しておきます。
ここの仕組みは、32ページっていうちいさな単位で電子出版をすることにより、たくさんの「本にならなかった企画」を吸い上げようというコンセプトです。意味は違いますが、現代の豆本かもしれません。フォーマットは見慣れたPDFで、決済はPayPalといういさぎよさ。著作権の保護とか、頒布権とか難しいことを考えるより、コンビニのように今欲しいものを今買えるようにした方が、結局はいいのかもしれませんね。
これは、みんなで一冊の本を読む「ソーシャルリーディング」というしくみです。実はさっき紹介した32booksでも似たようなことを考えているようなのですが、せっかくの電子出版なのだから、ネットでつないで、ツイッターやニコニコ動画みたいにみんなでツッコミを入れながらわいわい読もうという仕組みです。家族で写真集や絵本をとりあって読むようなことを、ネットでなら世界中の人とできる、という仕組みですね。
電子出版というと、どうやって画面の中に本と同じものを再現するか、と考えがちですけど、もしかしたらこんな風にネットの仕組みにあわせたあたらしいスタイルそのものが、電子出版には求められるのかもしれませんし、それは今のホントはまったく違うものとして、あたらしく育っていくのかもしれません。
そこで才能のあるひとが文章を買いたり、絵を描いたりしてなにかを伝え、それをみんなで楽しんだり、購入したりできる未来、せっかくだから生きているうちに来て欲しいものですね!
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